すべての瞬間を大切にするわ

と、ルイーズは言った。(映画「メッセージ」の一場面から)

種子島でロケット打ち上げ

  • 8万発と1発

秋分の日の月曜日。その昔デスクを並べた懐かしい同僚たちと集いランチをしました。みんな元気にそれぞれ働いていて何よりです。元同僚の一人が言う「こんど釜山に、花火大会を見に行くの。なんと8万発も上がるのよ!」。8万発かー、それは凄いな。「実はわたしも明日見に行くのよ。1発だけなんだけど・・・」

というわけで翌火曜日わたしは鹿児島に飛び、17時30分、種子島に上陸。秋の夕暮れの光とツクツクボーシの声、広い空にひこうき雲。うわーきれい。アニメ映画「秒速5センチメートル」の風景そっくりの空気感と透明感。そらそうだ、ここがロケ地だよ。そして同日夜23時。わたしは南種子の展望公園に立っていました。HⅡBロケットこうのとり8号、発射予定時刻は25時05分05秒。ホントに来てしまった!

 

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  • 行動した

ここまで急展開でした。当初9月11日だった発射予定(チケット取れなくて断念)が延期になり、24日の予定がさらに翌日へと延期され、25日にずれ込むことが決定。そのとき、緊急弾丸ツアーの臨時ゲートがわたしの目の前に突如開いたのでした。それが先週の土曜の夜のことです。なんとも幸運なおこぼれツアー。11日と24日に涙を呑んだ人たちがいて、その先に25日のわたしがいる。ここにいる。

今回の情報をくださったHさんは11日の空振り組で、彼女は日米露と何十回も発射を見てきた宇宙大師匠であり宇宙女神なのだけど、「夜の発射はねー、打ち上げを見慣れた種子島の人でも息を呑むほど凄いって言うよ、見られるなんて羨ましいなぁ」などと煽ってくださる。何事もあきらめないで待ってみるものだ、そしてチャンスが来たら行動することだなぁと今回しみじみ思います。もうずっと昔からロケットの打ち上げを見たいと憧れ続けてきたのに、口だけで行動してこなかった。

 

  • 打ち上げ

種子島中種23時。ツアーバスを降りたら漆黒の闇の中。海峡をはさんだ3キロ先にライトアップされた発射台が見えました。やばい!何これ!超かっけー!この眺めだけで心拍数はMAX。超ドキドキ。だけど発射台から目を離せば、波の音と虫の声だけの静かな種子島の秋の夜、やがて目が慣れてくると空にはびっしり敷き詰められた星。天の川には時々星が流れてきます。ここには1/f的な何かがゆらぎまくっていて、脳はだばだばとシータ波(?)を垂れ流してくるし、心は平穏さのあまり今にも闇に溶けそうになるんだけれど、発射台に目を向けるたび心拍数は瞬時にMAXに駆け上がり。その繰り返しがやたら忙しくて幸せで、あっという間に時間が迫ってきました。

遠くのスピーカーから、女性ボイスの日本語カウントダウンが微かに。この音声がまた淡々とかっこよくて目眩がするほど。やがて150〜200人ほどが見守る公園が緊張感で静まりかえり、真っ暗な闇の中、もう波の音とカウントダウンの声しか聞こえない・・・その時、突然、対岸の発射台が太陽のように眩しい光を放ち、白煙の塊がふくらみ、浮き上がるロケット。そして空間を力ずくで曲げるような爆音がやってくる。どーんとか、どかーんじゃないよ。ギュイギュイギチギチ巨大な螺子を巻くような爆音が見える。刺さるように強くて巨大な光量で、空はたちまち日中のように明るくなり、昼を上空へと持ち上げていく。打ち上げの瞬間に叫んだ周囲の人ももはや忘我の境地、ロケットの光が夜空に消えるまで無言。わたしもだ。

 

  • 感想

3キロ先とはいえ、肉眼で見るロケットにはとてつもない重量感と硬質感があって、発射の爆発力にも度肝を抜かれました。こんなものを宇宙まで上げてしまう人間のパワーと技術力に畏怖の念がわきました。感動という言葉では足りないし、凄いという言葉も言い得ていないし、上手く書けません。もちろん感じ方は人それぞれに違うでしょう。今回ツアーで出会ったお一人さま参加の女性は、巨大な生き物に見えると言っていました。わたしは後から罪悪感がやってきました(このことはめんどくさいので詳しく書かない)。

今回、種子島に行くまでは、生きているうち元気なうちにやりたいことをやっておかねば!とか、すい臓がんの恐ろしさから逃げて忘れて、どかんと一発大きな感動で免疫を爆上げするぜ〜!なんて目論んでいたけれど、もはやそんな考えもどうでもよくなってる今。あの瞬間、いとも簡単に別次元が開いた、そこに生きていたんだと思えます。

 

  • アホみたいにやれ

「がんのことを考えない。自分が好きなこと、やりたかったことをやればいい」と、先輩患者が以前アドバイスをくださった通りでした。やっとわかりました。今回、すい臓がんのことなんて完全に忘れていた。それが今はとても嬉しいし、やり方もわかりました。ロケットじゃなくてもできるはず。好きなことをアホみたいにやっちゃえばいい。

また、昨年すい臓がんでご主人を亡くされたEさんも、以前アドバイスをくださっていた。絶望でガクブルしながら必死に足掻いていたわたしへ、「いつも感動し前向きになんて生きられないけれど、日々を研ぎ澄まし、こころ震える瞬間を捉えなさい。その瞬間が苦しい人生の隙間を、過去さえも、返し縫いのように埋めていってくれるのです」と。今回の体験ほど、力強い返し縫いもそうそうなかろう。こうしてわたしの種子島弾丸ツアーは終わりました。あー、面白かった。楽しかった。また行こう。

 

要約

・速攻で行動する

・好きなことをアホみたいにやる

・がんを忘れるにはデッカくいこうぜ

・ロケットならいとも簡単に別次元

・過去は返し縫いが効くので大丈夫

後出しじゃんけんはルール違反ではない

・みんな、楽しく生きようぜ