すべての瞬間を大切にするわ

と、ルイーズは言った。(映画「メッセージ」の一場面から)

病気になってよかったこと

告知から2年、ブログ開始から2年を超えました。

なんだかあっという間だったような気がします。

YouTube岡田斗司夫さんの過去のゼミ動画を見ていたら、今のマンガ家の多くは仕事のしすぎ、過労の蓄積で、だいたい60歳くらいで死んじゃうだろうねというお話をしていて(ちなみに相撲取りも同じく平均寿命が短いらしい)、わたしも時間割だけはマンガ家のように苛烈に働いてきた人生だったから、さもありなん。これから先、最終回を描く前に亡くなるマンガ家さんが増えるかもしれず、どう備えるか。最終回の内容を他のマンガ家に託しておく、コンテ下書きを描いておき死後公開する、などマンガ作品にも終活をというお話。絶対読みたい最終回、わたしにもそんなマンガがいくつかあるので、先生がたもわたしも頑張って少しでも長生きしないとね。これからも新しい面白い連載がどんどん始まり、ラストが気になってもう死ねないぜ状態が理想です。

 

半年ほど前、再発でへこんでいたわたしにラジオ体操の公園で友だちになったKちゃんがLINEでメッセージをくださった。「この病気になって良かったと思える日がきっと来ますよ」こころに深く沁みた。

 

Kちゃん、とか馴れ馴れしく呼んでるけれど、20歳近く年上の人生大先輩で、長いこと都内大病院のナース長を勤めあげた医療人でもある。今も週2回都内の個人クリニックでバイトをしている現役、カッコイイ。いつも静かに見守ってくれていて、わたしがぶっ倒れたときは素早く駆けより脈を取るなどしてくれた。安心と信頼の存在感。ラジオ体操の後、時々マンションに招いてくれて、朝ご飯を食べさせてくれる。ジャージ姿の白衣の大天使。ナース精神というのは生涯底なしの人助けなんだなぁと。この世にはそんな人が本当にいる。Kちゃんに出会えたのが、この病気になってよかったこと。

 

ほかにもいっぱいある。

仕事を辞められたこと。仕事仕事で、長い間デタラメで滅茶苦茶な生活をしていました。楽しいことも嬉しいこともあったし、ご縁あって出会えた得意先の方がたや仕事仲間もみんな大好きでした。だけど責任や重圧、思うようにいかないことも多々あり、心身は疲れ果てていました。辞めたくても辞められなかった。まだできる、まだやりきっていない、もっといい仕事したいという欲と、泥のような疲労感の毎日がとても苦しかった。でも、仕事を辞めた今、その苦しみは全てなくなりました。あの袋小路から堂々と逃げるために、誰からも納得してもらえる言い訳を手に入れるために、いちばん怖い膵臓がんになったのではないかと思えるほど。正直、無事に仕事を終えたときの達成感、チームの人たちとの協力プレイや、クリエイティブの現場の活気を思うと、今だに少しさみしいような懐かしさが湧いてきますが、あのどうしようもない苦しさと疲労感から逃れられた今、もう仕事はしなくていい。よかった。これでよかった。

 

たくさんの出会い、新しい世界が開いた。

ラジオ体操の公園で知り合った方々、Kちゃんはじめ、早朝の公園に集うひとびと。過去の生活では絶対に出会えなかった。365日、早朝から体操する先輩たちの生き方考え方にふと触れるたびに感じるものがある。そしてこのつながりから、今までになかった人間関係がひろがり、小さなよろこびも得られました。

また、鍼灸院や治療院などの先生がた。人を助けることを生業とする人たちがここにも。施術時間がOVERしても「次の予約はないですから」と、黙々と施術を続けてくれたセラピストさんたち。新しく行った調剤薬局でわたしのおくすり手帳を見て、どこの癌ですか?と聞かれ「膵臓です。応援してくださいね」と返したら、大きな目で真っ直ぐにこっちを見て「もちろんです!」と言ってくれた薬剤師さん。謎の神仏系の祈祷師さんも、全力の本気で祈ってくれているのがわかった。わたしのために。

そしていつも応援してくれている友だち。会わなくても、SNSでつながっていなくても、助けよう応援しようとしてくれている気持ちがわかる。それを、この病気になってやっとわかるようになりました。子どもの頃からわたしはずっと人のあたたかい気持ち、善意、真心を疑ってきたんだと、何をやっとったんじゃと、今になって気付くことができました。アホでした。言葉を超えて伝わってくる気持ち、それを、おぼろげにも感じられる自分になれた。すごくよかったことです。

 

そして患者仲間、そのご家族。この病気にならなければ、決して出会えなかった人たちです。言葉にならない、言葉にしなくていい。わかってる、わかってくれている。それだけでほっとするのです。現実は決して大丈夫じゃない人たちで、わたしもそう。だけど大丈夫なんだ。そう思えるこころのグリップです。握りしめたらちょっとぬくいぞ。

 

今朝がた、仲良くしてくださっていたひとりの患者仲間が旅立ったというお知らせが届きました。亡きようこさんと3人で、患者の集いで漫才トリオをした群馬のTくん。彼は「毎日、よかったことを数える」習慣をやっていました。漫才トリオは解散だけど、わたしはこれからもピン芸人でやっていきますよ。Tくんお疲れさま。またいつか漫才しよう。手作りキャラメルを食べさせてくれ。

 

祈ります。ありがとうね。

 

 

3月4日追記:これ、100記事目だって。長文は書くのに時間がかかるのでもっと短くしたいと思いつつ。クドクド書いてまう。「日記でもなんでもいいから書くことで癌患者が延命したというエビデンスがあるよ」って、大津先生が言ってらした。長文を書けば、延命期間も延びるのじゃーというエビデンスはないけどね。