人々2
3月2日
得意先だった広告代理店のMお姉さんが「お会いしましょう」と言ってくださり、虎ノ門ヒルズ。いかにもモダン東京なビジネス空間にお仕事の雰囲気が満ち満ちていて、ほんの少し前までわたしもここに打ち合わせなんかにお伺いしていたんだな。早くも距離感と懐かしさにしみじみ。Mさんは仕事を切り上げて、オフィスから出てきてくださった。
膵臓がんが見つかり休業に入る、その直前までやっていた最後のお仕事の担当者だったMさん。過去お仕事をご一緒した機会は数えるほどしかないのに、わたくしを気にかけてくださり、言葉少ない中にもやさしいお気持ちが伝わってくるのはなぜだろう?と思っていたらMさんもまたがんサバイバーであった。ちょうど5年半前に乳がんの手術、化学療法、放射線、ホルモン療法を経て、きのこることに成功したそう。
なんで私にやさしいのですか、と聞いたら「あんたの横にお金が見えるから!」と真顔でおっしゃる。「あんたを仕事に使うと(コピーを書かせると)お金が儲かる(商品が売れる、クライアントが喜ぶ)から親切にしているだけよ」ってことらしい。でもMさん個人が儲かるわけではなく、Mさんのいる広告代理店が儲かるだけやん。
Mさんは以前からこういうトリッキーな物言いをする人で、照れ屋なのか毒舌なのか、愛にひねりを加えてくる。今日は、遠回しにわたしを勇気づけてくれているのがわかりました。めんどくさいエールが嬉しくて泣ける。
仕事一筋がむしゃらに生きて、気がつけばこの年齢で、思いがけずがんになってしまったことだなぁ・・・と、Mさんがわたしに共感のようなものを感じてくださっているのならなんとも光栄なことです。Mさんは超かっこいい女性で、たぶんあの会社のスター選手の一人で誰もが憧れる存在だから。
Mさんによる、きのこるための指南
「仕事を続けること。しかも忙しく仕事を続けること。私はQOLをものすごく大事にするのが方針の聖路加病院だった。“絶対に仕事を続けろ!”が治療方針で、それに従ったことが生き残れた理由。再発の恐怖を忙しさが紛らわしてくれた。」
「部下を育てること。チームの下に来た若え衆、スキルは低くプライドは高い、気が強い、人の話聞かない、だからミスが多い。そういう若い子たちの面倒を見ることが生きがいになった。どんどん成長していくのを目の当たりにするのが嬉しく、成長した彼らが自分を慕ってくれた。部下がいないなら、犬でも猫でもいいから育てて」
「そして自分を育てるの。何かを始めて。この年齢で、できないことがひとつずつできるようになっていくこと、ゼロから始められて成長できることがどんなに嬉しいか。私はランニングを始めた。病後、5分も歩けなかった自分が1キロ、次は2キロと走れるようになっていった。今では毎週20キロ走っている。こんなに嬉しいことってないよ」
仕事かぁ・・・しんどいな。でも仕事またやろう。Mさんと。