すべての瞬間を大切にするわ

と、ルイーズは言った。(映画「メッセージ」の一場面から)

入院検査とがん告知

 2月13日12時20分。

検査入院した私はこの日が初対面の消化器内科ドクターに呼ばれ、会議室のような部屋の片隅、パソコンの前に座りました。パソコンの画面には前週に撮った造影CTの画像が出ていました。ドクターは着席し、こっちを見ずにマウスでチキチキと輪切り状の膵臓のCT画像を早送りしながら

 

「石井です。これは膵臓がんです。」

 

自己紹介と同時の宣告でした。早い、早いよ先生。驚きの速攻でキメてきたよ。バスケでいうならラン・アンド・ガン。そのまんまやんけラン・アンド・癌。

 

ドクター石井の前ノリのすごいリズム感。せっかちなの?短気なの?こちらは受け止めて考える余地ゼロでした。こういう重みのあることは、少し勿体をつけるなりちょっとタメるなりして告るのかといままで思っていましたよ。愛の告白とはまったく違う感じだな。

 

しかし考えてみたら、これで正しい気がする。余計な気をもたせず、何も足さず、何も引かず、まず直球を投げるんだ。胸元にドンとね。それ以上のことって何ができるの。何もない。告知する側にとっても告知される側にとっても、一切の無駄がなくシンプルで潔く美しい。情緒や気分を混ぜてる場合じゃない。いい球ありがとう先生。

 

さて。告知内容には、わたし自身うすうすそんな気がしていたから、やっぱりねと納得しました。世の中そんなに甘くないし、そんなことあるはずがないというのは願望であり逃避、現実はただそこにあることだけ。

 

現実(要約)

「腫瘍は3センチ。経験上90%膵癌で間違いない。一応、今日は内視鏡で組織をとって検査し確定する。幸いがんはまだ膵臓内にある。だから手術できる段階だと思う。膵臓がんは多くの場合手術ができないほど進行してから発覚する。あなたはこの段階でここに来たのは良かった。」

 

先生は手元の書類(それ検査の同意書なんですけど)に、ボールペンでちゃっちゃと膵臓の絵を描きながら説明してくれました。しかし「幸い、がんはまだ膵臓内にあるのだ!」と言ったくせに、先生は膵臓からはみ出してがんを描き込む。絵が下手とかそういうのではない。

「ちょ・・・先生、絵、癌はみ出てますけど(汗)」

「あれっ・・・・? あーこれ僕のクセです。クセでこう書いちゃうんです」

なわけあるかーい!どんなクセやねん。でも、おかげさまで私はだいたいの状態を察しました。甘い考えを捨てる覚悟もできたのです。

 

これまでにも膵臓癌のおそろしさについては、私は聞きかじった量が多いと思います。スティーブジョブズさん、今敏監督、九重親方、この上ないほどの偉大な人びとが倒れ、身近では義理の姉のお母様もこの病気で他界されていたし、その都度、ショックを受けた私は、根っからのおたく気質もあるし、もとより年齢的にも耳年増であるから、膵臓癌については根堀り葉堀りでその病状、経緯から予後のヤバさまでも調べてきた。とても怖い病気です。

 

その昔、モーニングという週刊漫画を買っていた頃、「ブラックジャックによろしく」が連載されていて、章ごとにいろんな病気が登場し、息が詰まるように濃密なドラマがあった。その中でも、一番辛くて胸に迫ったのが膵臓がん編でした。

わたしはドクター石井から告知を受けつつ、「膵臓がん、とても怖いがんですよね。ブラよろで一番悲しかったエピソードでしたよ」と伝えました。「ああそうです、患者さんは女性で、確かお子さんが2人いらっしゃった・・・」まるで自分が過去に診た患者のことのように、ドクターは言いました。

 

そんなこんなでお話は20分ほど。主要な話題は当日受けるEUS—FNAという超音波内視鏡の下穿刺生検についてでした。

同意書にサインし、部屋を出て廊下を歩いているとき。ドクターがふと、「ブラックジャックによろしくの頃からだいぶ医療も進んでいるので、今は漫画よりも良い治療がいろいろありますからね」と慰め(?)の言葉をかけてくださいました。

 

気に入ったよ先生。先生は、もしかするとクールで無駄のない合理的な実務男なのかもしれないし、短気な即レス男かもしれないけど気に入ったよ。

「漫画より良い治療」・・・そうこなくちゃね。