すべての瞬間を大切にするわ

と、ルイーズは言った。(映画「メッセージ」の一場面から)

歌うスズキさん

去年のこと。古くからの友人であり、浄土真宗の僧侶のスズキさん(女性)に病気の相談をして以来、スズキさんはいつも気にかけてくれるようになりました。

上京されるたび毎度ファミレスで雑談の相手をしてくれるのですが、とりとめのない会話の中に、不意に重要な気付きやもの凄いキーワードが挟まってきます。スズキさんに限らず信仰の人は日頃まったく普通にしていても、一点どこか研ぎ澄まされたところがあるように思います。それが、ぐだぐだの俗物トークの泥水の中で急にキラっと光るから、言葉乞食なわたしは慌てて拾い集めてしまうのです。傾聴とか、唯識とか、今まで知らなかったそういう言葉も拾わせていただきました。そこから探求と思索のドアも開くというもんだよね。スズキさんいつもありがとうございます。

スズキさんはお経だけでなく歌も歌うシンガーソングお坊さんで、ギター1本と南無阿弥陀仏を携え、1年中日本中を旅しています。ライブハウスの他にもあちこちのお寺で、時には違う宗派のお寺でも、何かのデモや集会でも、呼ばれるがままにどこにでも行って誰にでも歌っているみたい。辺野古で歌ったよーとお土産に貝がらをくれたりしてびっくりする。でもイデオロギーはなくて、なんだかニュートラルなスズキさん。酒飲みで情緒不安定で情が深くてやさしくて面白い、自慢の友なのです。

 

そんなスズキさんから先週、同じくお坊さんのテンパクさんとのデュオによる、4枚目の新作CDが届きました。きっちりと高品質サウンドで響きわたるスズキさんとテンパクさんのメッセージ。 「大丈夫」という収録曲は、ライブでも何度か聞いていて、

 

大丈夫 安心して 歩いて行ける

 

という歌詞がいいなあ、好きだなあと思っていました。実は去年、わたくし不安と焦燥のあまり、えらいこと高額な闇治療に心を奪われ、お金を払うかどうか深刻に悩んだことがありました。わたしが毎朝1時間ほど散歩しているのを知っていたスズキさんは、「今までどおり、歩いていけばいいのじゃない?」と言ってくれました。それでわたしは少し安心して、歩いている自分をもっと信じようと思ったのです。その歌詞のままに。

 

大丈夫 安心して 歩いて行ける

 

ところが昨夜、改めてCDを聴きながら歌詞カードを見て、愕然としました。歩いていける、にはなんと

 

歩 い て 往 け る

 

という文字が当てられていたのでした。 往 け る ってか。今頃になってスズキさんの言葉のほんとうの意味を受け取りました。スズキさんはこの歌を、死にゆく人に向けて歌っていたのです。そうか。いま生きている全ての人はいずれ死にゆく人で、人はみな死につつある今を生きている、と浄土真宗の本に書いてあったよなあ。スズキさんは公私ともにたくさんの死を見届けてきたし、去年は死刑囚を見送りました。獄中からもらった1000通のお手紙や、面会室のアクリル板越しに合わせた手のひらや、処刑されたご遺体の引き取り。その壮絶な事実が「すべての罪はわが身にあり」という本に載っていて、彼らのことを詳しく知らなかったわたしは、読んで結構なダメージを受けましたが、それでも大丈夫だとスズキさんは歌うのです。

 

 大丈夫どんなにこわくても

 大丈夫どんなに淋しくても

 大丈夫安心して生きて往ける

 花びらは散っても花は散らない

 

 

CDでは蓮如上人の「白骨の御文」にも美しいメロディーがつけられて、歌われています。Amazonではまだ売っていませんが、そのうち販売するそうです。今はどこで買えるの?と聞いたら、京都の念珠店や法衣のお店で買えるよ、っていうので、いやそうじゃなくてタワーレコードとかで売ってくれ頼むからとお願いしておきました。

 

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