すべての瞬間を大切にするわ

と、ルイーズは言った。(映画「メッセージ」の一場面から)

仕事への愛着、責任、感傷、煩悩

少し前。退院した直後のこと。休業の件をあえてお知らせしていなかった得意先からメールが来て、新規案件の依頼をいただきました。黙っていたのは関係が薄いクライアントだからではなく、濃くて親密で重要だからこそ言えなかったのでした。それはわたしが欲深いから。

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昨年の大仕事のひとつは、そのクライアントさんのブランドリニューアルで、まさに全力を注いでやり遂げたと思います。コンセプト、商品設計、ロゴ、パッケージ、広告コミュニケーション、webサイトの全てを進化させる、やりがいと手応えのあるものでした。

得意先の担当者さんや制作の皆さまとも信頼関係があり、そんな方たちにわたしは弱みを見せたくなかった。心配されるのは嫌、「いつも仕事を元気にがんばってるオモロイ人」の好イメージ(?)を崩したくない。そういう欲と見栄がありました。

まさに、がんとわかる2ヶ月前にブランドのロンチは完了し、市場にリリースされていたので、新規の仕事は当分発生しないと踏んでいたことも黙っていた理由のひとつです。

そんな、なにも知らないクライアントさんからの新規ご依頼でした。さほど難易度は高くなく、スケジュールもたっぷりいただけたので、承って、仕事することにしました。またこの世界に、シレッと戻れるんじゃないか?という根拠も責任感もない希望。

 

打ち合わせに伺う際、最寄り駅の山手線ホームに、リニューアル後の新しいビジュアルとコピーの広告看板が出ているのを見ました。我ながらとても美しいメッセージだと思いました。そしてお伺いした久しぶりのオフィス空間には、以前と変わらない活気ある時間が流れていて、人だけでなく床も壁もドアも打ち合わせテーブルも椅子も内線電話もなにもかもが、目的を持って生きて働いている感じがしました。

ああこの空間、この空気感。最近まであたりまえにわたしはここにいた。そんな感傷に包まれながら、改めてクライアントへの信頼、仕事への愛着がこみ上げてきました。ほどよい緊張感、居心地のよさ、自分が必要とされる世界。やっぱり好きやー。

この空気感こそが、わたしが生きてきた証かもしれない。ずっと長いあいだひとり一所懸命に働くことで獲得した、わたしの居場所かもしれない。そんなふうに思う。

けれどわたしは、ここに戻ることを目指すのか。それとも新しい生き方を選ぶのか。果たして時間はあるのか。ないのか。またまた、どうしようもないループに陥ってしまう。煩悩ってこういうこと?

 

それ以前に、自分の問題だけでクライアントさんに迷惑をかけるわけにはいかない。だから一部カミングアウトしてご了承をいただきました。きっとわたしがいなくても、仕事は動いていくのです。

なにはともあれ化学療法が始まる前に、まずはこのお仕事を納めること。いま目の前に打ち込むべき目標がある。ありがたやありがたや。